糖尿病の治療薬にはさまざまな種類があります。かなり昔には血糖値やHbA1cを下げることを主目的として薬剤が使用されていましたが、現代では糖尿病によって引き起こされる合併症を効果的に防ぐ薬剤が優先的に選択されるようになってきました。糖尿病の治療薬についての考え方と薬剤の特徴について分かりやすく解説いたします。
1.インスリンが必要かどうか
1型糖尿病、高血糖性の昏睡、重症の肝臓病・腎臓病・感染症を伴った糖尿病ではインスリンの使用が必須ですので速やかに病院へ紹介いたします。やせ型で栄養状態が悪化している場合や、随時血糖が350mg/dL以上の高値である場合などにはインスリンの使用が望ましいことがありますので状態に応じて糖尿病専門医へ紹介します。インスリンを緊急に開始する必要がない糖尿病患者さんでは食事・運動療法に加えて以下のような薬物療法を検討します。
2. HbA1cの目標値を決める
合併症を予防するために通常はHbA1cの目標は7.0%未満を目標とします。低血糖を来たす可能性のある薬剤を使用している高齢者の方の場合にはHbA1cの目標をもう少し高くして低血糖の副作用が発生しにくいようにします。
3. 肥満・心疾患・慢性腎臓病の有無で治療薬を選択する
糖尿病患者さんの体重や合併症によって薬剤を選択する優先度が変わります。特に体重を減らす必要が大きい患者さんには減量効果のある薬剤を選びます。心臓・腎臓に合併症がある患者さんでは心機能・腎機能を温存する効果のある薬剤を積極的に使用します。
メトホルミン:古くから使用されていますが、インスリンを使用しない糖尿病患者さんの内服薬として第一に候補になる薬剤です。長所として食欲が減って体重が増えにくい、低血糖がない、薬が安価であることが挙げられます。また心臓病や脳卒中を減らすことが報告されており、高脂血症も改善させます。注意点として腎臓や肝臓の機能が高度に低下している患者さんには使用できません。メトホルミンは開始直後に吐気や下痢などの胃腸症状の副作用が出ることがありますので、最初は少量から始めて徐々に増量していきます。通常は朝夕の2回に分けて服用していただきますが、飲み忘れが多い方では1日1回にまとめて服用とします。
SGLT2阻害薬:比較的新しい薬剤ですが、優れた効果があることが報告されてまたたく間に糖尿病の薬の最前列に並ぶようになりました。尿の中に糖分を排出する作用があり、この薬剤を開始後に検尿をすると尿糖が強陽性になります。糖分だけではなく塩分も尿に排泄する作用があり、弱い利尿薬のように尿の量が増えるので脱水に注意が必要です。体重を減らす作用があり、単独では低血糖の原因にはなりません。SGLT2阻害薬の最大の長所は心臓病・腎臓病の悪化を抑える効果があることです。これらの臓器を保護する作用が大きいため、この薬剤は糖尿病がなくても心臓病・腎臓病の患者さんに対しても使用されることがあります。糖尿病と診断した患者さんのうち心臓病・動脈硬化・慢性腎臓病のいずれかがある方には最初からSGLT2阻害薬の使用を検討します。注意点として尿の中に糖分が増えるため尿路や性器の感染症を来たしやすくなります。尿を出すときに痛い、残尿感が出た、陰部がかゆいといった症状が出現した場合にはすぐに受診していただくようお願いしています。また尿の中に糖分を出す作用は体重を増やさないという効果がありますが、逆に食思不振のときでも体内の栄養を勝手に追い出してしまいケトアシドーシスという重大な問題を生じさせることがあります。栄養状態が良くないやせている糖尿病患者さんには使用しにくい薬剤です。このようにいくつかの問題点はあるものの、注意して使用することで糖尿病患者さんの重大な合併症である心臓病・脳卒中・慢性腎臓病を抑える効果がある有効な薬剤です。
DPP4阻害薬:体重の増減には影響を与えませんが、低血糖などの重大な副作用が少ないため比較的安全に使用できる薬剤です。これまでの研究では心臓や血管の病気を食い止める効果は証明されておらず糖尿病薬の第一候補ではありませんが、進行した腎機能障害や筋肉量が低下した高齢の患者さんではメトホルミンやSGLT2阻害薬が使用しにくいためDPP4阻害薬がしばしば選択されます。自分で薬の管理をすることが難しい患者さんには週1回の服用ですむDPP4阻害薬が使いやすいです。後述するGLP-1受容体作動薬とは作用が重複するため併用することができません。
GLP-1受容体作動薬:皮下注射薬と内服薬があります。体重を減らす作用があること、単独では低血糖をおこさないことが特長です。注射薬は心筋梗塞や脳卒中などの心血管病を抑制する効果があることから米国のガイドラインでは肥満のある2型糖尿病に対する第1選択薬の一つです。注射薬には週1回だけの投与が可能である薬剤があり、ご自分での注射が難しい患者さんにも使用しやすいです。ダイエット効果がある反面、吐気・下痢・便秘などの胃腸症状が副作用として出やすいので投与開始後に中止せざるえないことがあります。
GLP-1受容体作動薬の内服薬セマグルチド(リベルサス®)も2025年に心血管病を抑える効果があることが初めて発表されました(文献5)。注射薬のGLP-1受容体作動薬と同様にダイエット効果があるため肥満の患者さんには有効です。注意点としてリベルサスの内服は起床後すぐにコップ1杯の水で内服した後に30分間は飲食をしてはいけません。このような飲み方が可能である患者さんにはお勧めできる薬剤です。
SU剤:糖尿病の内服薬として歴史のある薬剤です。体重を減少させる効果はなく、低血糖で意識障害を引き起こす副作用が問題となるため現在では治療薬として選ばれることは以前よりは減ってきています。食事量が半分以下に減少した場合には低血糖を防ぐためにSU剤の内服は中止してください。また低血糖の心配からSU剤を使用している高齢の患者さんはガイドラインでHbA1cを厳格に下げないよう推奨されています。他の内服薬を併用しても高血糖が改善せず、インスリンを打ちたくない患者さんにだけSU剤は処方しています。高度の腎障害や肝硬変の患者さんには投与できません。
インスリン:自分の体内でインスリンを作ることができない1型糖尿病ではインスリン注射が必須です。高血糖のために意識が障害されていたり、肝臓病・腎臓病・敗血症などの重症疾患の患者さんも速やかなインスリンの投与が必要です。このような場合には総合病院へ緊急紹介します。
体重が減少している、口の渇きが強い、血糖350mg/dL以上、HbA1c10%を超える場合などにもインスリン使用が推奨されています。一時的にインスリンを使用して高血糖を改善させた後は血糖管理が落ち着いてインスリンを中止できることがあるため、一度インスリンを使用したら生涯にわたりインスリンが必要であるとは考えないでください。一時的な高血糖の改善後に内服薬に切り替えて通院されている患者さんは多くおられます。
インスリンを使用しているすべての患者さんは低血糖の危険性があります。低血糖を起こすと、だるさ・冷や汗・不安・ふるえ・動悸が出現します。さらに血糖が下がると痙攣・麻痺・意識障害をきたすことがあります。低血糖の可能性があると感じたらブドウ糖やジュースを速やかに摂取するようにしてください。
参考文献
- (1) 糖尿病診療ガイドライン2024 血糖降下薬による治療
- (2) Pharmacologic Approaches to Glycemic Treatment: Standards of Care in Diabetes. Diabetes Care 2024;47(Supplement_1):S158–S178. View article・・米国の糖尿病ガイドライン
- (3) プライマリ・ケア医のための新・糖尿病診療. 日経メディカル 岩岡秀明 著
- (4) UpToDate. Initial management of hyperglycemia in adults with type 2 diabetes mellitus. last updated: Mar 18, 2024.
- (5) Oral Semaglutide and Cardiovascular Outcomes in High-Risk Type 2 Diabetes. McGuire DK, et al. N Engl J Med. 2025. PMID: 40162642