腎代替療法
すべての腎臓病の患者さんの腎機能を少しでも長く維持するために腎臓内科は現在選択できる治療法や生活改善をご提案していきますが、腎臓機能は年齢とともに徐々に低下していきます。様々な病気や健康状態によって腎臓の機能は損なわれますが、他の重要臓器と異なり腎臓は完全に機能を失っても透析という治療で大切な命を維持することができます。腎臓の機能が終わっても人生の終わりでは決してありません。腎臓病の患者さんは腎臓の機能を失ったときに腎臓の代わりになる治療法(腎代替療法)について正しい知識を持っていただきたいと思います。腎代替療法には透析療法と腎移植があります。それぞれの治療法について詳しく解説いたします。
血液透析
日本では腎臓の機能が高度に低下した患者さんの9割以上が血液透析を選択します。血液透析は血管から血液をポンプで汲み出して透析膜という浄化装置を通してキレイにして血管に戻すことで失われた腎臓の代わりとする治療です。日本の血液透析の治療成績は諸外国と比較して良好であることが知られていますが、その理由として保険制度や医療機器の技術力に加えて日本の患者さんの真面目さが安定した血液透析を続ける上で非常に大きいのではと個人的に考えています。制約のある食生活や様々な薬の服用は大変なことですが、自己管理をきちんとされている患者さんは長く健康を保つことができます。透析を始めても仕事を続けたり、趣味や旅行などを計画的に楽しんでおられる方は数多くおられます。旅行を計画される場合には旅先で血液透析を受ける施設を予約する必要がありますので血液透析の通院先を事前にご相談ください。
一般的に血液透析を始める前に両腕のどちらかに血液の流れを変える手術します。通常の静脈からの採血では短時間で大量の血液をポンプで汲み出すことができませんので、流れの早い動脈から一部の血液を静脈に流し込んで勢いのある血液が流れる血管を作成する必要があります。この血管を内シャントと呼びます。慢性腎臓病と診断された患者さんの中で将来透析となる可能性がすべての方に超音波検査で両腕の血管を調べます。これは内シャント手術に適した血管が左右どちらにあるかを事前に調べておいて、せっかくの良好な血管を傷つけないために温存するためです。特に入院した際に数日以上の点滴を行うと血管が短期間で傷ついて狭くなってしまうことがあるので注意が必要です。良好な血管のある腕からは点滴や採血をしないように患者さんに説明しておきます。しかし腕の血管を超音波で調べると言われても、透析が近いとは必ずしも考えないで下さい。血液透析を受けるかどうかの相談がまだまだ先の状態でも念の為に血管は大切にしておいた方が良いからです。両腕ともにシャントに適した血管がある場合には利き腕ではない腕の血管を透析用に温存します。何らかの理由でご自分の血管だけではシャント手術が難しい患者さんには人工血管という人工物の柔らかいパイプを腕の皮下脂肪のなかに通して血管の手術をすることで血液透析を始めることは可能ですが、人工血管は感染や閉塞といった問題が生じやすいので可能な限りご自分の血管を温存するようにお願いしています。血液透析を希望される方は透析療法の必要性が近づいたら内シャント手術の準備のために血液透析を開始できる病院へご紹介するようにいたします。
腹膜透析:Peritoneal Dialysis (PD)
自宅でお腹の中の空いたスペース(腹腔内)に清潔な透析液を入れて一定時間貯留した後に排液することで、体内の尿毒素や過剰な水を除去する治療法です。お腹の内臓が納まっている空間には「腹膜」という膜で覆われており、この中に透析液をいれると腹膜の細かい隙間を通して体内の不要となった成分が染み込んできます。体内の不要な成分が溶け込んだ透析液を一定時間ごとに入れ替えることで体全体をきれいにするという治療が腹膜透析です。透析液の出し入れのためのカテーテルを腹部に留置する手術を事前に受けていただく必要です。ご自分の腹膜を介した緩やかな物質交換による治療であり、血圧が変動しにくいため心機能が低下しても治療が継続できる点が長所です。患者さんご自身または介護者によって1日数回透析液バッグを交換するCAPDと、自動腹膜灌流装置を用いて就寝中に自動的に透析液を交換するAPDがあります。APDは就寝前に機器を準備して翌朝に取り外す治療であるため、日中の行動制限がなく仕事やデイサービス利用などをすることができます。患者さん本人による透析液交換が困難である場合には、ご家族や訪問看護師が交換手技を行う「アシステッドPD」が行われます。
日本では腹膜透析を始める患者さんは諸外国よりも少ない傾向があります。その理由の一つとして腹膜透析について十分に知らずに血液透析を選択する方がまだおられると推測されています。慢性腎臓病の患者さんに腎臓病教室などを通して腹膜透析の長所を理解していただくことで、腹膜透析はもっと普及すべき治療法と考えております。腹膜透析を少しでも検討されている患者さんは近隣の腹膜透析を積極的に行っている病院へご紹介いたします。
腎移植
腎臓の機能を失った患者さんの健康状態を回復させる最善の治療法です。腎移植を受けた患者さんは腎臓病の自覚症状がほとんど無くなり、生活の制約もごくわずかとなります。残念ながら日本では腎臓を含めて亡くなった方からの臓器移植医療の件数が諸外国よりも大幅に少ないです。このため日本での腎臓移植はご家族から臓器を提供される「生体腎移植」比率が高くなっています。日本では生体腎移植の臓器提供者は血縁者もしくは配偶者とそのご家族に限られます。生体腎移植の提供者となって下さる可能性のあるご家族のおられる患者様は、提供者の候補の方と一緒に腎移植を行っている病院を受診していただきます。一般的に移植を行う病院では臓器提供者の腎機能・他の臓器の状態・臓器移植に対するお気持ちなどを確認した上で慎重に手術の計画を検討していきます。腎移植の病院を受診することは手術の決定ではありませんので、まだ患者さんや提供者の方が悩んでいる段階であっても移植専門医の話を聞きに行くことをお勧めします。
腎移植を受けた患者さんのほとんどが移植を受けることができたことを喜んでおられました。透析療法を何年か受けておられた患者さんも腎移植後の体調の大幅な回復を実感されていました。腎移植について検討しておられる患者さんは外来でご相談ください。
保存的腎臓療法
血液透析・腹膜透析・腎移植のいずれの治療も希望されない患者さんに対しては、血圧の管理や貧血の治療などの腎臓の機能を温存した上で、苦痛を緩和する治療として保存的腎臓療法(conservative kidney management: CKM)という選択肢があります。腎機能が高度に低下した場合におきる症状を尿毒症症状と呼びます。尿毒症症状にはむくみ・息苦しさ・かゆみ・足がつること・吐き気・下痢・だるさなどがあり、これらの症状は薬剤で和らげることが難しいことがあります。尿毒症が出現した時点で透析療法を決断される患者さんもおられますので、透析をしないというお考えの患者さんも少なくとも1回は緊急透析が可能な病院への受診をしていただくよう提案します。保存的腎臓療法を選択された後も、可能であればご家族同席の上で患者さんご本人のお考えを繰り返し確認するようにしておりますので、その時点でのご意見をお教えください。
- 腎代替療法選択ガイド2020 編集 日本腎臓学会・日本透析医学会・日本腹膜透析医学会・日本臨床腎移植学会・日本小児腎臓病学会
- 腎不全 治療選択とその実際 . (患者さん向けのパンフレット) 編集 日本腎臓学会・日本透析医学会・日本移植学会・日本臨床腎移植学会・日本腹膜透析医学会
- 腎移植 あなたの疑問にすべて答えます, バリュープロモーション, 後藤憲彦・鳴海俊治・渡井至彦 著
- 人生の最終段階における腎代替療法選択の進め方 特に,CKMを念頭においた意思決定のあり方について. 日腎会誌 65:864‒870, 2023, 守山 敏樹